par_par_se

ゲームの感想(乙女、BL、アダルト中心)や、知識ゼロの人間でも作れた同人誌関連の記事をメーンとしつつ、日常の呟きなどとかく雑多に徒然と

徒花異譚をプレイしました

こんにちは。1年以上振りですね、私です。

さて、この度はライアーソフト徒花異譚をプレイしました。
こちらはPC向けノベルゲームとして、現在DMMおよびSTEAMにて配信中です。

本作、シナリオが海原望さん、原画・キャラクターデザインが大石竜子さんです。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、同社のフェアリーテイル・レクイエム(※リンク先R18注意)もこのタッグで制作されております。私はそちらをFD含めプレイ済みなのですが、もの凄く良い作品でして……。なので今回もいやが上にも期待は高まっておりました。

プレイした感想を端的に述べますと、最高。

というわけで、以下感想というほどのものでもありませんが、取り留めなく認めていこうと思います。ネタバレなどもありますのでご注意くださいませ。

冒頭、時代を感じる夜汽車のシーンがまず描かれます。
ここで心鷲掴みにされました。
個人的に、冒頭でグッと心掴まれた作品にはその勢いのまま最後まで駆け抜けて「良い作品だった……」となることがしばしばあります。
勿論、それとは別に、冒頭では静かに、けれどもプレイしていくに連れじわじわと、それでいて確実に絡め取られ、最終的にこの作品は沼……となるタイプのものもあります。
今回は冒頭の数頁を読んだ時点で、これは恐ろしいぐらいにハマるだろうなと確信しました。して最終的にその通りになったわけですが。

夜汽車での会話から舞台が転じ、『徒花異譚』が描かれていくわけですが、この雰囲気がとても好きです。
言葉一つ一つの言い回しも、凄く丁寧に選ばれているなという印象を受けました。ああ、ここはあの単語でもなく、別のその単語でもなく、これだからこそこうもしっくりくるんだろうなというのがしばしば。

そして紙魚ちゃん可愛い。飼いたい。紙魚ちゃんが食べてしまった言葉を吐き出すというのではなく、その身体自体がどろりと溶けて墨に戻るというのがいいなと感じました。虫に食われた言葉が戻るに際し、それを食べた存在はそこに在ってはいけない。

そうして誰しもが知っているお話をなぞっていくわけですが、思えばこうも丁寧におとぎ話を読んだことはあったろうかとふと思ったりなんだり。
それこそ、ごく幼い時分には有名どころのお話は東西を問わず読みましたが、そこは子供、あくまでそこに描かれているものを受容するに過ぎなかったなと。そこから派生して、自分がこの世界にいたら……などといった妄想を遊ばせることは或いはあったかもしれませんが、可愛がっていた飼い犬を喪った花咲かじいさんの心情や、浦島太郎を引き留める乙姫の心の内を考えたり、といったことは無かったのではないでしょうか。あくまで私の場合はですが。

して黒筆が非常に格好良い。素敵。
彼に最も惹かれたのは、何よりも白姫を第一に置いているんだなというのが、プレイヤー視点では最初からありありと伝わるところですね。それでいてそれが押しつけがましくない。それが、あの『徒花異譚』という世界における登場人物「黒筆」の役割であるからなのか、他の要因もあるのかというのは、最初の頃には分かりません。が、それでも彼の白姫への態度は非常に好もしいものでした。

ところで、話を読み進めていくと、合間合間に回想シーンと言いますか、徒花郷とは別の時空の蔵でのシーンが度々出てきますね。
尊い
あのシーンになる度泣いちゃう。
あの彼等がかつての白姫と黒筆ということはすぐに分かります。ただ、それが徒花郷の2人とどうリンクしていくのだろうかというのが気になって、早く続きを求める気持ちが高まります。
全編を通して素敵な作品だったのですが、私はこの合間合間に出てくる蔵でのシーンに一番心乱され、惹かれました。

そうして2冊目の絵草紙はこちらもご存じ浦島太郎。
乙姫様が吐露した心情に、内心どころか思わず実際に首を動かして頷いてしまうぐらいでした。
と、ここで回想(便宜上、挿入されているシーンは回想と称します)に出てくる家庭教師の女性と乙姫様の声が同じだということにプレイヤーは気付かされます。
とはいえ、私はこの時点では、それが何らかの意図を持たれたものなのか、単に乙姫役の声優さんがそちらにも声をあてているだけなのかは分かりませんでした。
そんなところを気にしつつ、次のうりこ姫へと話は続きます。

はい。回想シーンでうりこ姫が少女の妹に似ているという発言が出てきました。
とくれば、乙姫様は家庭教師の先生に似ている(或いは擬えられている)のだろうと思わされます。
そして、この物語の登場人物は限られています。となると、花咲かじいさんは、少女の祖父を示しているのでは?と考えられます。そこまで考えて、プレイ前に登場キャラクターを見ているプレイヤーは、この時点でまだ登場していないおとぎ話の人物は桃太郎であると分かります。そして、登場人物の中で桃太郎に当てはめられそうな人物は1人しか考えられません。

となると、それが正しいのか、正しかったとしてどう終着に向かうのか、早くそれに至る為に、頁を送るエンターキーを押す指の力も強くなります。

はい。予想は当たっていますね。
桃太郎は少女の婚約者でした。
そして婚約者さんがメッチャメチャどストライクなんですけど!?
好き……。
とても好き。
心に諦念を抱き、それを御している人間がね……私は非常に好きなんですよ。
そして少女を同士と見做し、愛することは無いが幸せにすると誠実さを持って彼女に接するわけですよ。
好きです。
あと顔も良い。好き。

そうして物語は終着に向かうわけですが。
そこはノベルゲーム、これまでの選択に応じて分岐します。
私が一番最初に見たエンディングは、現からも夢からも爪弾きにされ、その間隙に陥ってしまうものでした。

あくまで個人的にですが、これが最も本来的な結末だろうなとの思いです。
かつて少女と少年が蔵で過ごした日々は、彼ら両方にとって、この上なく尊い思い出でしょう。
私は、思い出というものは、あくまでも思い出のまま褪せてゆくか、或いは反芻されすぎて磨滅してしまうのが最良だと考えております。
思い出に、その先の時空の現実を触れさせることはあってはならない。
無論、それによりかつての尊い思い出を超えるぐらいの幸福に出会えることもあるでしょう。まして、これは現実ではなく、あくまで一つの物語なのです。
けれども、現実に触れることで、そこに僅かにでも思い出が損なわれてしまう可能性がある以上は、あくまで「思い出」のまま完結させていてほしいのです。
だからこそ、このエンドではあの日々が、何にも傷つけられることなく終えられるという意味で、一番こうあってほしいなと思えるものでした。

とはいえそれはそれ。当然他のエンドも見ます。
次に見たのは現エンドでした。恐らくはこれが真(?)エンドという扱いなのではないでしょうか。
現を選んだ白姫が行く道で、これまでに修復した物語の登場人物――少女がそれらに当てはめていた周囲の人物――が彼女に手を貸すシーンでは、ずっと泣きっぱなしだったのに更に涙が溢れてきました。
そうして大団円を迎え、最後に再び夜汽車のシーンに戻ったところで、茶目っ気を見せてくる黒筆(仮)さんずるい。好き。ああいうちょっと人を食った感じの言動とか大好きだよ!

而して最後に夢エンドも読み進めます。
ところで、これを言うとノベルゲームの否定になってしまうのですが、プレイヤーである自身の選択により、この物語の行く末が変わってしまうと思うと、途中で「選択させないで!!!!!!!」となることもありました。
あくまで作者によってかっちりと作られたものを、ただなぞり受容するということをさせて!という小説でも読んでろやという話ですねはい。

閑話休題

夢エンドは非常に優しく美しいものでした。
日々、辛い現を生きる(私自身はそんな辛い日々ではないですが。ごく普通の社会人生活です。)身としては、ただただ甘やかな日々が永遠に続くというものに、大いなる癒しを覚えます。
そしてですね、プレイ途中で花咲かじいさんてめえってなったシーン(木のあれ)があったんですが、花咲かじいさんに腹を立てたことを全面的に反省しましたね。
うん、あそこで手を取らせて木に登ってたらここ台無し。

いやあ、ティッシュの消費がもの凄く激しい作品でした。
ここまで心動かされたものは久々じゃないでしょうか。
これだけダラダラ書いていて本当に取り留めなくなってしまいましたが、結論は『徒花異譚』は最高。是非プレイして。ですね。一言で済んじゃう。